<< cgiboy.comにトロイの木馬 | main | ど根性ナントカ >>

ちびくろさんぼ

以下は2004年5月3、4日に『裏凡identity market』に発表した文章です。ホームページ『IM...identity market』からのリンクを貼っていた文章なのですが、事情あってリンク出来なくなりましたので、当ブログの場を借り再録致しました。
再録にあたり前後編に分かれていたものをまとめ、併せて加筆修整しました。
またリンクを最新のものに改めました。

*--------------------------------------*


 ホームページの旧作紹介コーナー「熟蔵」に「虎とバター」という作品をアップした。今から十数年前、有線放送の番組のために書いた作品なのだが、この作品は当時世間を騒がせていた『ちびくろさんぼ』廃刊騒動を暗に批判するものでもあった。
当時は有線放送からギャラを貰って書いていたという立場。また番組自体も音楽中心の娯楽番組。ゆえに暗に批判するに留めざるを得なかったのだが、今回の掲載にあたり、この場を利用し私の意見を述べておきたい。

『ちびくろさんぼ』廃刊騒動とは、黒人差別だという投書をきっかけに、1988年、各出版社から出ていた『ちびくろさんぼ』の絵本が一斉に廃刊になった事件、およびその後数年間に巻き起こった一連の騒動のことである。物語の差別性の有無と共に、差別問題を正面から捉えず逃げるように廃刊を決めた出版社、さらには学校、図書館、家庭での廃棄を求めた長野市についても議論が起きた。
『ちびくろさんぼ』は廃刊するべきではなかった。これが、当時も今も変わらぬ私の意見だ。
なぜ廃刊に反対するのか?
それは原作を無視した改作も含め、『ちびくろさんぼ』が世界の多くの国で愛読されてきた童話だという事実。この事実は、差別性の有無にかかわらず、歴史から抹殺すべきではないと考えるからだ。

『ちびくろさんぼ(The Story of Little Black Sambo)』(※1)は、19世紀末にイギリス人ヘレン・バナーマン(Helen BANNERMAN)によって書かれた童話である。バナーマンは軍医の夫人として長くインドに住んでいた人物。彼女の経歴やこの童話の成立過程も面白いのだが、本題から外れるのでここでは触れないでおく。
重要なのはインドで書かれたということだ。長い歴史と豊かな文化を持つインドは、当時イギリスに植民地化され搾取の限りを尽くされていた。この時代背景に留意しながら、『ちびくろさんぼ』を読み直して欲しい。まず、主人公の黒人少年「ちびくろさんぼ」は、気が弱いが機転が利く賢い少年として書かれていることに気付くだろう。そして少年を脅して服を横取りしていく威張った虎たちは、競って植民地政策を進める欧米諸国の象徴であることが分かるだろう。この虎たちは意地の張り合りから喧嘩を始め、最後はバターになってしまう。つまりこの童話は植民地支配の酷さと、それを競う欧米諸国の愚かさを批判するものなのだ。「虎」=インドの象徴と深読みすれば別の解釈も考えられるが、いずれにせよ、この童話が黒人を差別するものではないことは明白であろう。

だが私は、原作に差別の意図がないから『ちびくろさんぼ』の廃刊が間違っていると言うのではない。もし仮に『ちびくろさんぼ』が差別意識のもとで書かれたものであったとしても、やはり私は、廃刊は間違いだったと言うであろう。

ガキの頃、私も『ちびくろさんぼ』の絵本を読んでいる。その絵本がどこまで原作に忠実だったか覚えてない。ただ、黒人はいつも裸だと信じていた・・・これはテレビ、特に秘境探検モノの影響が大きかったと思うが、『ちびくろさんぼ』の影響もあったと思う。(ちなみにアメリカ人はいつも馬にまたがり、平気で人を撃ち殺す野蛮で恐ろしい連中だとも信じていた・・・もちろん西部劇の影響だ。)

100年前に書かれたこの童話が、多くの国で愛読され続けてきたこと。これは事実だ。
黒人に対する差別がかつてあからさまに存在し、現在もなお存在していること。これも事実だ。
この童話を読み、黒人への偏見を持った人がいること。これも事実だ。
そして、この童話の存在を不愉快に思う人が人種を問わずいること。これもまた事実だ。

だが、差別行為の事実を歴史から抹消することが、差別の解消につながるだろうか?
例えばアウシュヴィッツの虐殺の悲劇は、被害者ユダヤ人にとっても、加害者ドイツ人にとっても不愉快な記憶だ。だからといってアウシュヴィッツを教科書から抹消すべきだと、あなたは思うだろうか?
いや、思うまい。
歴史を歪めずに教え、過ちだったと指摘する事が、悲劇を繰り返さぬ最善の道である。そう思うのではないだろうか?

前に書いた通り、元々『ちびくろさんぼ』に差別の意図はない。むしろ賢い子供として好意的に書かれている。だがこの童話は数多くの偏見と議論を生み出してきた。そして黒人でも欧米人でもインド人でもない日本人の間でも、昔は何の議論もなく平然と愛読され、しかし十数年前に突然廃刊になった。
なぜそうなってしまったのか?
『ちびくろさんぼ』の話と共に、それを隠さず教えること。
それこそが、差別をなくす最善の道なのではないだろうか?

ゆえに私は『ちびくろさんぼ』の廃刊に異議を唱えた。
そして今は、教科書に載せるべきだとさえ思っている。


(※1)原作及び玲奈氏による和訳が下記サイトに掲載されているので、興味のある方はご一読されたし。

【参考資料】
玲奈『ちびくろさんぼのちいさいおうち』>『ちびくろさんぼ』html版(2001、玲奈、2001年9月17日更新版)[http://www.genpaku.org/sambo/story1.html]

信太一郎『日本語と隣の国から世界を見る』>雑考雑記>「『ちびくろサンボ』の廃刊と再刊に思う」、(2004、信太一郎、2004年5月3日現在掲載版)[http://homepage1.nifty.com/forty-sixer/Sambo.htm]

コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック
-
管理者の承認待ちトラックバックです。
  • -
  • 2006/10/23 12:58 PM
calendar
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< March 2019 >>
Follow identitymarket on Twitter
Twilog (Twitter 過去ログ)
Twilog - @identitymarket


new entries
categories
archives
links
profile
search this site.
mobile
qrcode
recent comment
recent trackback
sponsored links
others
---------------------
+ NetTheRadio +
PSYCHEDELIK.COM
PSYCHEDELIK.COM
psyradio
psyradio
SomaFM - Groove Salad
Groove Salad

---------------------
+ GlobalChillAge +